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神戸地方裁判所 昭和34年(ヨ)398号 判決 1960年8月19日

債権者 安居忠夫 外七名

債務者 福山通運株式会社

主文

債権者等の本件各申請はいずれもこれを却下する。

申請費用は債権者等の負担とする。

事実

第一、債権者等申請代理人は「債務者は債権者等をその従業員として取扱い且つ昭和三十四年九月五日以降毎月五日限り債権者安居忠夫に対し金一二、〇九〇円、同菅原治男に対し金一三、六八〇円、同高崎国茂に対し金一二、九〇〇円、同田渕干開に対し金一四、五二〇円、同佐々木健に対し金一四、四六〇円、同金田正夫に対し金一三、七七〇円、同佐藤美敬に対し金一〇、一一〇円、同稲垣孝義に対し金一三、五〇〇円をいずれも支払わなければならない。申請費用は債務者の負担とする」との判決を求め、その申請の理由として、

第二、被保全権利の存在

一、債務者会社は福山市に本店を置き、関西、中国地方等数十ケ所に支店及び営業所を設置して貨物運輸業を営む株式会社であり、債権者菅原は昭和三十二年五月十日に、同金田は同年六月二十九日に、同佐々木は同年七月十二日に、同佐藤は同三十三年七月二十六日に、同安居は同三十四年二月十六日に、同高崎は同年四月二十六日に、同田渕は同年五月二十三日に、同稲垣は同年七月五日にそれぞれ債務者会社と雇傭契約を結び、爾来債務者会社の従業員として、神戸市葺合区磯上通四丁目二十六番地に在る債務者会社神戸営業所(以下旧営業所と略称する)において、貨物の集配運送の業務に従事し、昭和三十四年八月五日まで毎月五日の給料日(但し前々月二十一日より前月二十日までの給料)に債務者会社よりそれぞれ相当給料の支払をうけていたものである。

二、本件紛争の経過は次のとおりである。

債権者等は昭和三十四年七月五日頃労働組合を結成し、同月八日夏季一時金等の支給につき団体交渉をするよう債務者会社神戸営業所に対し要求した。

尤も法律智識に乏しい債権者等は当初思慮することなく、債務者会社を申請外福山運送株式会社(以下単に福山運送と略称する)と呼称しても同意義であると気軽に考え、福山運送労働組合組合長安居忠夫の名義を以て福山運送社長阿部常吉宛右要求書を発したのであるが、翌九日、債務者会社と別個に福山運送株式会社なるものが登記簿上存在し、申請外阿部常吉、同阿部繁雄が代表取締役として登記せられていること及び債務者会社神戸営業所長は形式上右繁雄(右常吉の息子)となつていることを事務書類等によつて確認した。そこで債権者等は債務者会社の従業員であるから曩に結成した組合名の誤りを福山通運労働組合と訂正し、債務者会社神戸営業所所長阿部繁雄宛に夏季手当支給、団体交渉等の要求をなした。

しかるに右繁雄は再三に亘る団体交渉の要求を一切拒否し且つ組合の即時解散を迫るばかりであつたが、遂に同年七月十七日頃前記神戸営業所を閉鎖する挙に出で、更に同月二十四日福山運送清算人という名義を以て福山運送を解散した旨債権者等に回答し、次で右同様清算人の名により翌八月七日付を以て、債権者等を会社解散を理由に解雇した旨債権者等に通告してきた。その間債権者等は債務者会社と円満妥結を計るべく、債権者等の申請により兵庫県地方労働委員会において斡旋が行われたが、債務者会社は一切これに応じなかつた。

しかして債権者等は前記債務者会社神戸営業所に附属する宿泊寮において、同営業所の営業再開を待機していたところ、債務者会社は同年八月十四日、五日頃、突然神戸市兵庫区西宮内町八十四番地に神戸営業所(以下新営業所と略称する)を変更し、申請人等の就労を拒否している次第である。

三、債権者等の雇傭主は債務者会社である。

債務者会社は、債権者等はいずれも訴外前記福山運送の従業員であつて、債務者会社の従業員ではないと主張するが以下述べる事実に徴して債権者等が債務者会社の従業員であることは明白である。

(一)  先ず旧営業所において貨物の集配業務を行つていた営業主体は債務者会社であることは次の事実により肯認される。即ち

1、債務者会社の業務は道路運送法第四条に基き、昭和二十七年四月二十六日運輸大臣の免許をうけて行つているものであり、右旧営業所も右免許に基き債務者会社の営業所として業務を行つていたものである。これに反し福山運送なるものは営業所も実在せず、勿論営業免許にもなつていない。若し仮に福山運送が実在したというならば、何故福山運送として免許申請をし、免許をうけて営業をしなかつたものか、免許をうけず而も他者の名義を借受けて運送事業を営むことは道路運送法第四条、第三十六条、第百二十八条により厳禁されていることであるのに敢えてこれに反して営業する実際的必要は全く考えられないところである。尤も債務者会社は右法律に違反したとして罰金を科せられたようであるが、それを以て債務者会社の主張が正当づけられるものではない。却つて右制裁を科せられるに至つた経緯をみるならば、債務者会社の悪質な意図が窺知できるのである。即ち、未だ債務者会社の名義貸等法律違反の事実が陸運事務所で問題とされる前昭和三十四年七月二十八日に債務者会社大阪支店の幹部等が右旧営業所における使用車輛よりナンバープレートを外して持帰り、これを右陸運事務所に返納し、ために右違反事実が明るみに出たものであるがこれは制裁をうけることによつて本件紛争を有利に解決するがため名義貸等の事実をつくり上げ、自ら進んでこれを申告に及んだものである。

2、右営業所における貨物集配業務に使用されている自動車は債務者会社の所有であつて、福山運送の所有に属する自動車は昭和三十年四月十九日福山運送の設立登記がなされて以来現在まで一輛も存在したことがない。又前記阿部繁雄が道路運送車輛法に基く車輛の整備管理者となり、管理車輛の本拠は債務者会社神戸営業所とせられていることからも、右営業所の営業主体が債務者会社であることは明らかである。

3、右営業所の建物には「福山通運」と表記した看板が一目瞭然と掲げられているに反し、福山運送なる表示は全く存在しない。又右営業所における使用車輛の車体にはすべて債務者会社の名称或は商標が表示せられている。

4、右営業所において行われている貨物集配業務が債務者会社の神戸営業所として行われていることは次の事実によつて明らかである。

(1) 貨物集配業の取引先との関係においてのみならず、他の同業者や兵庫トラツク協会に対する関係においてもすべて債務者会社神戸営業所名を使用している。

(2) 債務者会社の本社或は他営業所と右旧営業所間の受信発信文書にはすべて債務者会社神戸営業所或は同所長阿部繁雄が受信発信人として表示されている。

若し福山運送なる会社が実在し、同会社に対し、取引関係先との運送業務等対外的な面に関して債務者会社の名義を使用させていたとすれば、債務者会社と福山運送間では、当然福山運送としての名称で文書の交換がなされるべきであろう。

(3) 運送保険、自動車損害保険等についても債務者会社神戸営業所として日本火災海上保険株式会社或は住友海上火災保険会社等と接衝し或はその契約をしている。

(4) 前記阿部繁雄は債務者会社神戸営業所々長と表示した名刺を所有して、これを他人に配付し、本件紛争後においてもこれを県総評専従員である申請外平坂春雄に手渡している。

(5) 債務者会社神戸営業所として職業安定所に求人の申込をなしている。

(6) 右営業所内に債務者会社神戸営業所としての就業規則が存在していた。

(7) 債権者等が組合を結成後、債務者会社の本社々長や大阪支店の幹部等が続々右営業所に来て組合員の説得につとめたことがある。これを例えば大阪支店の申請外小丸常務取締役が解決金三千円を出すから妥結しようと言つたり、右小丸等大阪支店の幹部等三人がわざわざ組合の上部団体である県総評専従員である申請外平坂に面会を求めて来たりしているが、これらは前後の事情から判るように、単なる第三者的な仲裁斡旋に過ぎないものとは到底考えられない。

(二)  債務者会社は、福山運送が存在していた証拠として、福山運送名義で納税、健康保険及び失業保険関係が整備されていた旨主張するが、然しこれは福山運送として法人登記をしている以上当然福山運送の名義で法人税の納税をしなければならないものであり、その関係から従業員の給与所得から源泉徴収する税金も福山運送名義で納めねばならないこととなり、又健康保険、失業保険、厚生年金保険は強制加入であるが、所得税法第八条第六項の社会保険料として、右源泉徴収する税金からの控除が認められているわけであるから、それらの諸保険料も福山運送名義で納付しているわけである。それらの保険料を債務者会社名義で納付するとすれば、右控除ができなくなり、より多額を納税せねばならない。

これに反し労働者災害補償保険は運送事業の場合強制保険であるが、(労働者災害補償保険法第三条)右社会保険として保険料の控除が認められていないので(所得税法第八条第六項)、従業員から源泉徴収する税金からの控除ができず、従つてわざわざ偽つて福山運送名義で納付する実益がない。そこで右労働者災害補償保険は債務者会社がその名で処理しているのである。

以上により明らかなように、福山運送なるものは単に登記簿上存在するに過ぎない仮空会社であつて、それは債務者会社が税務対策その他債務免脱を計らんとする趣旨から登記がなされたに過ぎないと推測される。

(三)  債権者等が右旧営業所の営業主体に雇われ、その下で貨物集配等の業務に従事していたことは明白な事実であつて、既に述べた如く、右営業所の営業主体が債務者会社である以上、債権者等が債務者会社の神戸営業所における業務に従事する従業員であることは明白であるが、更に債権者等が債務者会社の従業員であつて、それ以外の何ものでもないことは次の事実により一層明らかである。

1、債権者等の内、佐藤、佐々木、金田、菅原等四名は、神戸公共職業安定所に債務者会社神戸営業所より求人の申込があり、同安定所よりその職業紹介をうけ、同営業所自動車運転手又は助手として採用せられたものである。右安定所に福山運送としての求人申込があつた事実はない。他の債権者等は知人の紹介によるものであるが、いずれも債務者会社神戸営業所として紹介されたものであつて、福山運送として紹介されたことは全くない。

2、債権者等が右雇用される際労働条件の明示をうけたのも債務者会社神戸営業所所長阿部繁雄よりであつて、労働契約は債務者会社と締結したものと認められる。

3、右営業所には債務者会社としての就業規則が古くから存在し、福山運送がこれを単に見本として貰受けたものでないことは、その第二十八条の箇所に符箋をつけて神戸営業所として通用させようとしていた事実により明らかである。債権者等が組合結成後の昭和三十四年七月十一日頃、前記阿部繁雄に対し就業規則の提示を求め、同人より提示をうけた同規則には、その表示に「就業規則福山運送株式会社」と記載されている。然しながらその記載内容は債務者会社のそれと全く同一であり、福山運送として適用しない箇所も存し、その表紙の記載の内容字体、用紙の使用度等が異つている点等よりして、提示を求められて慌てて表紙を取り替えた形跡が窺える。

4、債権者等の労働者災害補償保険のための保険料等の労働基準局に対する報告は債務者会社神戸営業所所長阿部繁雄よりなされている。

5、債務者会社は前述の如く、債権者等が組合を結成し、その要求があるや旧営業所を閉鎖し、右阿部所長らは、右営業所の営業主体は福山運送であると称してこれを解散し、債権者等に昭和三十四年八月七日付解雇通知を発したが、これと同時に営業再開を準備して同月十四、五日頃、神戸市兵庫区西宮内町八十四番地に営業所(前記新営業所)を移転して再開に及んだものであるが、場所こそ変えてもその営業の実体は全く同一である。しかしてその従業員の構成は、債権者等の組合結成直後でもあり、亦紛争を有利に導くために一応刷新したものの、それでも旧営業所の従業員申請外岩崎稔外五名程は右新営業所に移つている。

6、その他債務者会社神戸営業所が同所に勤務する者をその従業員として取扱つていた事実は枚挙にいとまがない。

四、仮に福山運送が存在し、債権者等がその従業員であつたとしても、以下述べる理由により債務者会社は債権者等をその従業員として取扱い、賃金支払の義務がある。即ち

(一)  旧営業所における営業活動は前述の如く移転した新営業所におけるそれと実質的に全く同一である。即ちそれは債務者会社の神戸地区方面における貨物集配の業務をその内容とするものであることに変りはない。場所の移転は旧営業所の建物内に債権者等が居住する宿泊寮があり、債権者等の就労を拒否することが事実上困難であるため、又紛争を有利に導かんがためになされたものであるが、この場所的移転によつて営業内容が変らないことは当然である。

ところで一般に経営の実体に変更がなく存続する限り、仮に企業の所有者乃至経営者が交替したとしても企業そのものは実質的に同一性を失わず終始存続しているとみるべきであつて、会社が解散しても、これにより企業の廃止がなく新たな経営者がこれを承継して経営を続けるときは、解散会社とその従業員との労働関係は解散会社より新たな経営者に承継されるものである。

本件についてこれをみるに、福山運送の企業乃至経営の実体は福山運送の解散直後に設置された前記債務者会社の新神戸営業所とその企業乃至経営の実体と全く同一性をもつている。即ち仮に福山運送が存在していたとしても、その実権者は正しく債務者会社の代表者であり、その使用していた名称も債務者会社神戸営業所であるし、その営業内容である貨物の集配業務も新営業所のそれと全く同一で取引関係等対外的社会的な面で何等異るところがない。唯前記の如く場所と設備が移動したがこれは企業乃至経営の同一性に何等の影響をも与えるものではないというべきである。

だとすると債務者会社は福山運送の解散後、同会社より同会社と債権者等間の一切の労働関係を承継したものというべきである。

(二)  又仮に前記主張が理由がないとしても、債権者等は雇用された時から債務者会社の従業員として雇用され、その業務に就労しているものと信じ込んでいたものであるが、これは債務者会社が福山運送に債務者会社神戸営業所なる名称を使用して営業をなすことを許諾していたため、福山運送が右名称を以て債権者等を雇用したためであるが、この場合福山運送を債務者会社と誤認して取引をした第三者に対して、それより生じた債務につき債務者会社は福山運送と連帯責任があることは商法第二十三条により明らかである。右規定は取引の安全の見地より当然の要請であるが、労働関係において右のような名義使用の許諾により労働者が使用者を誤認したときは許諾した使用者の責務を認めなければならないこと労働者保護の見地から、より一層強く要請せられるべきである。

(三)  又市民法関係における表見代理の規定による第三者保護の制度は当然個別的労働法関係、殊に賃金問題等の労基法関係にもこれを適用すべきものであり、少くとも本件の如き場合民法第百九条の類推により債務者会社は債権者等に対して責任を負うべきものと考える。

第三、保全の必要性

以上述べた如く債権者等は債務者会社の従業員として右旧営業所に附属する宿泊寮に宿泊しているが、債務者会社よりうける賃金を以て唯一の生活の資として生計を維持している。しかして債権者等が従前支給をうけていた賃金は、毎月二十日迄の計算(前月二十一日より)で翌月五日に支払われていたものであり、その平均賃金相当額は昭和三十四年七月二十日の賃金締切日を起算日としてそれぞれ過去三ケ月間(但し三ケ月に満たない債権者高崎、同田渕、同稲垣三名については雇入後の期間)につき算定すれば申請の趣旨記載の金額であるところ、債務者会社は債権者等が同会社の従業員であることを争い、その就労を拒んで昭和三十四年八月七日以降の賃金の支払をしない現状である。

しかしながら債権者等は債務者会社の従業員たる地位を有することは前示したところから明らかであり、右日時以後申請の趣旨記載通りの賃金請求権を有するから、債権者等は債務者会社を被告として雇用関係存在確認並に右賃金請求の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、今にして請求の趣旨記載どおりの仮処分命令を得ておかなければ、急迫な生活困難を来し、生命にも危険が及ぶ虞れがあるので本件申請に及んだものである。と述べた。(立証省略)

第四、

債務者会社代理人は主文同旨の判決を求め、

第五、答弁として、

申請理由中、債務者会社が貨物運送事業を営む株式会社であり、本店を福山市におき、関西、中国方面に支店及び営業所があること、福山運送が債務者会社とは別個独立の法人であること、債権者等がその主張の日時、福山運送労働組合長安居忠夫の名義で、福山運送に対し要求書を提出したこと、福山運送が解散となり、債権者等主張の頃その清算人阿部繁雄より債権者等に対し解雇通知をなしたこと、右阿部繁雄が債権者等に呈示した就業規則が福山運送のものであることはいずれも認めるが、その余の事実上及び法律上の主張はすべて否認する。と述べ、

第六、債務者会社の主張として

一、債権者等は債務者会社の従業員ではなく、福山運送の従業員である。即ち

(一)  福山運送は商業登記を経た独立の法人であり、債権者等の他二十三名位の従業員を有していて、神戸市葺合区磯上通十二番地に本店を置き、同地上の福山運送所有家屋を営業所兼事務所として現実に貨物の集荷配達業務を営み、且つ従業員中債権者等の如き独身者には宿泊寮を提供し、労働基準監督局、税務署、保険署等にそれぞれ所定の届出等をなして従業員に対する実体報告をすると共に、税金納入、保険料の支払等を確実に実行していたものであつて、債権者等主張の如き架空の会社ではない。

(二)  しかして福山運送は債務者会社や申請外株式会社坂田回漕店(以下単に坂田回漕店と略称する)、同久留米運送株式会社(以下単に久留米運送と略称する)等との間に、それぞれ貨物の集荷配達の下請負契約を締結してその貨物の集荷配達や運賃の代理受領の業務を営み、業務の便宜上、福山運送所有車輛には債務者会社や右坂田回漕、久留米運送の各名義を借りて表示して車輛を運行してきたものである。

(三)  債権者等は福山運送の従業員として同会社所有の車輛に乗車し、福山運送の指揮に従つてその業務に従事していたものであるが、債権者等が右の如き福山運送の実体及び同人等が福山運送の従業員であることを自ら知つていたことは次の事実により明らかである。

1、債権者等の内安居、菅原、金田はいずれも坂田回漕と表示した車輛の専属乗務者であり、佐々木は坂田回漕並びに久留米運送と表示する各車輛の乗務者である。

2、右の如く同じ職場に働きながら、或る者は坂田回漕と表示する車輛に、或る者は久留米運送と表示する車輛に、或る者は債務者会社名を表示する車輛にそれぞれ乗車してそれぞれの貨物の集荷配達業務に従事しながら、債権者等及びその他の従業員もすべて福山運送の社長前記申請外阿部常吉を社長と呼び、同人より毎月給料の支給をうけ、且つその支給に際しては健康保険料の控除があり、その保険証書の交付をうけたり、前記同一の宿泊寮に止宿している。

しかして債務者会社は福山運送との間に自社の取扱貨物の集荷配達の前記下請負契約をしたのみであつて、坂田回漕店や久留米運送の取扱貨物については無関係であるから、若し債権者等が福山運送の従業員でないとすれば、その雇主は坂田回漕店であるかも知れず、又久留米運送であるかも知れないのである。

3、債権者等は組合結成に際し福山運送労働組合と称し、福山運送株式会社社長阿部常吉宛を以て通告書と要求書を作成交付している。債権者等の一部の者は、右通告書及び要求書は申請外上田正吉の作成したもので、その作成名義及び宛名は知らなかつた旨弁解するが、右各書面は債権者等が右申請外人に雇主を福山運送であること及びその社長は阿部常吉であることを告げて作成方依頼した結果作成されたものであることは明らかである。

4、債権者等が組合を結成し、福山運送の前記営業所にビラ、ポスターを大々的に多数貼付していたが、そのビラ、ポスターにはすべて福山運送労働組合と明記されてあり、その内容も右阿部常吉社長の悪口許り書いたものであつた。しかもなおそのビラは前記福山運送の営業所の他処にある坂田回漕店或いは久留米運送と表示された建物にも貼付されていた。

5、債権者等が右要求書により福山運送と交渉していたとき、債務者会社の大阪支店長等が仲介人として斡旋しようと申出たところ、関係ない者の斡旋は受けないとこれを拒否し更に右要求書による交渉に際し、債務者会社の本社や債務者会社の従業員で組織する労働組合に対し一片の通告乃至申出等がなされなかつた。

二、債務者会社が福山運送に対し、債務者会社名義の表示を福山運送の所有車輛に表示することを認めたことはあるが、この措置は福山運送の業務遂行上便利であるために外ならない。換言すれば、道路運送法による自動車運送事業の免許は、法規上の制約や既存業者の意向による制約等のため一朝一夕に免許を得ることが困難である実情にあるので債務者会社名を貸与したのである。尤もこの措置のためには福山運送の所有車輛に債務者会社名を表示することができないので、車輛そのものを債務者会社の所有車輛として届出することになる。これらの処置は道路運送法上禁止されているが、債務者会社の荷主や荷受人の信用を得るため福山運送名で集荷配達をするよりも福山運送の業績が上るためである。

しかして右に述べたように、この措置は法規違反となるので債権者等の争議に端を発し監督官庁の査察をうけることとなり、昭和三十四年九月一日債務者会社名義の車輛は使用停止となり、自動車検査証及び自動車登録番号票を大阪陸運局に提出したものであつて、この提出日は右処分日以前のことであるが、債務者会社は査察をうけて違反事実が明白となつたので誠意を示すため提出したものであり、債権者等の言うが如き事情は皆無である。

三、債権者等は福山運送の営業建物には債務者会社名の看板が掲げてあつたこと、福山運送の使用車輛に債務者会社名の表示があつたこと、債務者会社と申請外阿部繁雄との通信文書に神戸営業所々長との表示があること等を以て、債務者会社が債権者等の雇主であると主張するが、これは論理の飛躍があり誤つた見解であるといわなければならない。即ち債務者会社は福山運送という別個独立の会社との間に、前記の如き貨物の集荷配達に関して下請負契約を締結したものであるが、右福山運送は道路運送法による自動車運送事業の免許を得ていないため車輛の名義貸をなし、福山運送の営業所に債務者会社神戸営業所の表示や看板が掲げられたに過ぎないのである。従つて福山運送が実際上如何なる構成人員或は従業員で業務を運営してゆくかは、債務者会社と福山運送との前記下請負契約外の事柄に属するもので契約の次元を異にする。換言すれば債務者会社と福山運送との契約は右の如く下請負契約であり、福山運送の従業員との雇傭契約ではないし、又債務者会社の右名義貸行為が債権者等との雇傭契約とはならないこと勿論である。

更に債務者会社の右名義貸付行為が貨物の破損紛失に際し、荷主に対し損害賠償の問題を生ずることはあり得るかも知れないが福山運送の解散のため債権者等が解雇されても債務者会社が債権者等を雇傭しなければならない法理は存しない。又債務者会社と福山運送間の通信文書中阿部所長なる文字があつたとしても、その内容は飽くまで福山運送に対する文書であり、債権者等を文書の宛名としたものではなく、債権者等に表示した文書ではないのであるから、債務者会社が債権者等をその従業員として取扱つていたことにもならない。

四、債権者等は、福山運送がその名義で納税各種保険料の支払をしているのは福山運送として法人登記をしているからであると主張するが、この見解は事実を曲解している。福山運送が債権者等その他の従業員を雇傭して既述の如く営業をしていたため税金納付、保険料の支払をしていたものである。たゞ労働者災害補償保険は福山運送が道路運送法の免許を得ていないため、所轄官庁が債務者会社名義としたものであつて、福山運送の意思に反する取扱であるがその保険料は福山運送が支払つていたものである。この点に関し債務者会社は所轄官庁に対し届出をなしたことはなく、又何人にも届出の委託をなした事実もない。

五、債務者会社は福山運送が事業所を閉鎖した結果神戸市における貨物の集荷配達業務が事実上停止したため、已むなく神戸市兵庫区西宮内町八十四番地に神戸営業所(前記新営業所)を開設した。この営業所は福山運送とは全く関係なく、債務者会社の直営営業所であり、債権者等の主張するような福山運送の営業所の移転ではない。たゞ福山運送の旧従業員中有能な人物四、五名を採用したが、それも債務者会社の要請によるものではなく、前記の如く債務者会社の神戸市における貨物の集荷配達業務が危殆に瀕したので急拠営業所開設の必要に迫られてこれを新設すると共に、従業員が無かつたため臨時的に福山運送の旧従業員中の希望者の中有能な人物を雇傭したものであるが、その他の大多数の人達は福山運送の従業員として残つていた。従つて債務者会社が開設した新神戸営業所は福山運送並びに前記阿部常吉、同阿部繁雄とは全く無関係であり経営者が全く異る。債権者等は企業の同一性を云々するが、右の如く企業の経営者が違うのであるから右にいう同一性などはあり得ない。たゞ債務者会社の業務が貨物の集荷配達自体をその内容とするものであるところから、業務の外形的運行状態は大体似たものであることは当然である。しかしながら従前の福山運送の営業当時は坂田回漕店や久留米運送の貨物の集荷配達も行われていたのであるが、債務者会社の右新神戸営業所では右坂田回漕店や久留米運送の貨物の集荷配達は全然ないのであるから、業務運行の外観上も福山運送当時とは明確に区別できるものである。

以上述べたように債権者等はいずれも福山運送の従業員であつたものであり、債務者会社との間には何等の関係もないことは明らかであるから、本件申請は失当である。

と述べた。(立証省略)

理由

一、債権者等は旧営業所の営業主体は債務者会社であり、債権者等は同会社に雇われて同営業所で集荷配達の業務に従事している者であり、債務者会社主張の申請外福山運送なる会社は単に登記簿上存在するに過ぎない架空会社である旨主張し、債務者会社は、債権者等はいずれも申請外福山運送の従業員であつて、債務者会社とは何等の雇傭関係はない旨主張するので、先づ右営業所における営業主体は誰であるかについて検討するに、債務者会社が福山市に本店を置き関西、中国地方等数十ケ所に支店及び営業所を設置して貨物運輸業を営む会社であり、申請外福山運送が昭和三十年四月十九日設立の登記を了している事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第十五、十六号各証、証人阿部繁雄の証言により成立を認め得る乙第一号証の一、同第二号証、日本銀行歳入代理店第一銀行三宮支店の作成部分についてはいずれも成立に争いがなく、その余の部分はいずれも同証人の証言により成立を認め得る同第五号証の一乃至三、三宮社会保険出張所長の作成部分についてはいずれも成立に争いがなく、その余の部分はいずれも同証人の証言により成立を認め得る同第六号証の一及び二、同第七号証、日本銀行歳入代理店神戸銀行本店の作成部分についてはいずれも成立に争いがなく、その余の部分はいずれも書類の方式及び弁論の全趣旨により成立を認め得る同第八号証の一乃至六、日本銀行歳入代理店神戸銀行本店の作成部分についてはいずれも成立に争いがなく、その余の部分はいずれも同証人の証言により成立を認め得る同第九号証の一乃至三、公務員の作成にかかり真正に成立したものと推定される同第十号証、同証人の証言により成立を認め得る同第十七号証、現場の撮影写真であることにつき争いのない乙検第一乃至四号各証、同証人、同高橋至、同三島貞三郎、同岩崎稔、同林茂一の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、申請外阿部繁雄は昭和二十五、六年頃、当時神戸地区及びその周辺地域における債務者会社取扱貨物の集荷配達業務の委託をうけていた申請外坂田回漕店神戸出張所長申請外上野某の下で、実際の業務の運営に携つていたところ、その頃右阿部繁雄は個人で債務者会社の右業務の委託をうけ、当時より債務者会社神戸営業所なる名称の下に営業所を設け、自ら従業員を雇入れて、事実上独立した個人事業を営んでいたが、昭和三十年四月十七日頃右個人事業を法人組織に改め、会社名を福山運送株式会社として同月十九日その設立登記をなした。しかしてその設立に当つては債務者会社と資金的には別段関係のない右阿部繁雄、同人の父申請外阿部常吉、右阿部繁雄の叔父申請外林茂市その他四名の者がそれぞれ出資し、代表取締役を右阿部常吉としたが、右設立登記前の昭和三十年四月一日既に債務者会社と右福山運送との間に、福山運送が債務者会社の取扱う神戸及びその周辺地域における貨物の集荷配達業務の委託をうけるとともに、原則としてその取扱貨物運賃の二割に当たる金員を取扱手数料として支払をうけること、債務者会社は福山運送が右委託業務を行う場合に限り、福山運送が債務者会社の営業所又は荷扱所名義を使用することを認めること等その他十数項目の契約を締結して両会社の契約内容を明確にした上、福山運送は当初神戸市葺合区八幡通五丁目六の一番地に在つた右阿部常吉所有建物(煉瓦造り建坪二十八坪余)を営業所として業務の遂行に当つていたが、その後昭和三十一年暮頃神戸市葺合区磯上通四丁目二十六番地に在つた右阿部常吉個人所有家屋を福山運送が借り受けてここに右営業所を変更し、更にその後従業員の寮とするため右建物の裏に在つた右阿部常吉所有土地を敷地として、福山運送が木造瓦葺二階建共同住宅一棟建坪一、二階共二十五坪八合三勺の家屋を新築所有することとなつた。その間、福山運送は申請外久留米運送及び同坂田回漕店との間においても、それぞれ前記債務者会社と取交したと同趣旨の貨物取扱に関する委託契約を締結した上、右磯上通四丁目二十六番地の営業所(前記旧営業所)より約五百米離れた神戸市葺合区小野柄通りに別個に営業所を設けて、右両申請外会社関係の業務の運営に当つていた。しかして右両営業所で働く従業員達の給料はすべて福山運送より支給され、所得税の納付、健康保険金、厚生年金保険金、失業保険金の各納付も亦福山運送がこれをなし、車輛の諸経費も福山運送がこれを支払つてきた上、右旧営業所における使用車輛の各自動車検査証には、所有者として債務者会社、使用者として債務者会社神戸営業所と記載され且つ右各自動車にはいずれも債務者会社名の表示がなされていたに拘らず、その真実の所有者はいずれも福山運送であり、(従つて福山運送としては債務者会社に自動車の使用料等は全く支払つていない)従業員等も前記阿部繁雄の指示によりそれぞれ債務者会社関係、久留米運送関係、坂田回漕店関係の業務に従事していた等の事実が一応肯認され、右認定に一部符合しない証人岩崎稔、同林茂一の各証言の一部は容易く採用し難く、右認定に反する債権者菅原治男、同佐藤美敬、同佐々木健、同安居忠夫の各本人尋問の結果は措信できない。

右事実に照せば旧営業所の営業主体は福山運送であると認めるのが相当である。

尤も前記認定の如く旧営業所における使用車輛の各自動車検査証によれば、右各車輛の所有名義は債務者会社であり、その使用者は債務者会社神戸営業所、使用の本拠は磯上通四丁目二十六番地右神戸営業所と記載され、且つ右使用車輛には債務者会社の名称又は商号が表示されている外、兵庫県陸運事務所長の作成部分については争いがなく、その余の部分はいずれも証人平坂春雄の証言により成立を認め得る疏甲第三及び四号各証、同第二十七号証、成立に争いがない同第六乃至八号各証、同第九号証の一及び二、四乃至六、同第十号証の一及び三、同第十一号証、証人阿部繁雄の証言により成立を認め得る同第十号証の二、同第十六号証、同足立保の証言により成立を認め得る同第三十九号証の一乃至五、弁論の全趣旨により成立を認め得る同第十八号証の一及び二、同第三十二号証、証人阿部繁雄、同高橋至、同三島貞三郎、同畑比佐満、同林茂平、同森田昌治、同平坂春雄、同上田正吉(一、二回)同足立保の各証言、債権者原治男、同佐藤美敬、同佐々木健、同安居忠夫の各本人尋問の結果を綜合すれば、債権者等主張のように(一)旧営業所には債務者会社神戸営業所と表示した看板が掲げられており、建物の内外を問わず一見福山運送の会社名を表示する何等の標識も存在していなかつたこと、(二)右営業所と取引先又は債務者会社本店及び支店、或は同業者等に対する通信文書の受信又は発信人名義は債務者会社神戸営業所又は同営業所々長阿部繁雄名義となつていたこと、(三)福山運送としては道路運送法による自動車運送事業の免許を得ておらず、右営業所は債務者会社神戸営業所(直営)として兵庫県陸運事務所に届出られていたこと、(四)自動車損害保険等についても債務者会社神戸営業所として保険会社との間に保険契約を締結していたこと、(五)前記阿部繁雄は債務者会社神戸営業所所長という肩書を記載した名刺を所有且使用し、同阿部常吉も同営業所を表示した名刺を所有且使用していたこと、(六)労働者災害補償保険料及び負担金の労働基準局長に対する報告並びに同保険金の納付はいずれも債務者会社神戸営業所名を以てなされていたこと、(七)公共職業安定所に対する求人申込は事業主を債務者会社神戸営業所としてなされていたこと(この点に関する証人阿部繁雄の証言部分は措信し難い)、(八)右営業所内に債務者会社の就業規則が存在していたこと、(九)昭和三十四年七月二十二日福山運送解散(このことは当事者間に争いがない)後同年八月中旬頃新たに神戸市兵庫区西宮内町八十四番地に債務者会社の新営業所が開設されたが、同営業所には旧営業所の旧従業員中数名の者が労務に従事していること等の諸事実を一応認め得るけれども、福山運送が、道路運送法によつて禁止されているとはいえ、すでに契約によつて債務者会社より債務者会社の営業所名義の使用を承諾されている以上、その営業所名義を充分に利用して同営業所における集荷配達業務を行うべく諸措置をとることは容易に予想されるところであつて、前記自動車検査証の記載内容及び右認定の諸事実の中(一)、(二)、(三)、(五)、の各事実は右営業所の営業主体を福山運送であるとしても別段不可解な事柄ではなく、(四)の事実も営業車輛の所有者を債務者会社として届出ている関係上、保険契約の当事者を債務者会社神戸営業所と表示したものと考えられるし、その余の各事実は証人阿部繁雄の証言に照して考えれば、未だ以て前記認定を覆して、右営業所の営業主体が債務者会社であり、福山運送が架空会社である事実を肯認せしめるには充分でなく、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。右述べたところによれば、右営業所の営業主体が債務者会社であることを前提とする債権者等の主張は採用し難い。

二、債権者等は次で会社解散によつて企業の廃止を伴わず、企業そのものが同一性を保ちながら新企業主に承継されるときは、解散会社とその従業員との労働関係は解散会社より新企業主に当然承継されることを前提とし、福山運送が仮に存在し、これが解散したとしても、旧営業所の企業の実体と右解散後債務者会社が開設した新営業所の企業の実体とは全く同一性を保つていることからみれば、福山運送の企業そのものはその解散後債務者会社に承継されたものであつて、福山運送と債権者等の労働関係は当然債務者会社に承継された旨主張するので以下検討するのに、企業というものは資本と労働力の結合による動的な組織とみるべきであり、従つて労働関係は特定の経営者に対するというよりも、寧ろ企業そのものに結合したものというべきであるから、例えば合資会社から株式会社に組織変更があり、或は株式会社から個人企業に切替えがなされたとしても、企業そのものが廃止されることなく同一性を存続する限り、労働関係は新たな経営者に承継されると解すべきである。この理由は会社が解散した場合、解散によつて企業を廃止することなく、新たな経営者がこれを承継して経営を続ける場合には、単に企業の所有者乃至経営者が交替をしたというに止り、企業そのものは実質的には同一性を失うことなく、終始存続しているとみることができるから、労働関係は解散会社から新な経営者に承継されるものと解せられる。

そこで本件についてこれをみるのに、前記認定の如く福山運送は債務者会社との契約により同会社神戸営業所の名称を使用していたとはいえ、独立の法人として磯上通四丁目二十六番地にある福山運送の代表取締役阿部常吉個人所有の土地、家屋を使用してその営業所となし、同営業所においては、専ら神戸及びその周辺地域における債務者会社の取扱荷物の集荷配達の業務をその営業内容としていたが、債務者会社との関係においては、前記契約による右集荷配達業務の受託とこれに対する手数料の取得という関係があること以外、福山運送の右業務の運営及び人事等について債務者会社が支配的に介入した事実はこれを認めるに足りる証拠はなく、却つて福山運送が設立された前後の前記認定の如き事情及び証人阿部繁雄、同高橋至の各証言を綜合して勘案するときは、右両会社間には右契約関係があるのみで、他に何等の関係がなかつた事実並びに福山運送は債務者会社、坂田回漕店、久留米運送等よりの手数料の取得により経営が成立つていた事実が一応肯認せられる。しかして成立に争いがない疎甲第一号証の一、同第二号証の一乃至八、証人阿部繁雄の証言により成立を認め得る乙第一号証の二、成立に争いがない同第三号証、官署作成部分について成立に争いなく、その余の部分について同証人の証言により成立を認め得る同第十四号証、同証人、同森田昌治、同平坂春雄、同上田正吉(一、二回)、同三島真三郎、同畑比佐満、同高橋至、同林茂平の各証言並びに前記債権者各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば福山運送の営業に従事する従業員達はかねて個々的に残業手当の支給或は就業規則の呈示等を前記阿部繁雄に要求していたけれども、労務管理について理解に乏しい同人は之に満足な回答を与えることなく終つていたため、昭和三十四年七月初旬右従業員等の間に組合結成の気運が高まり同月五日頃福山運送労働組合と称する組合を結成し、兵庫県自動車運送労働組合専従者である申請外上田正吉とも相談の上、同月八日付を以つて福山運送の社長阿部常吉に対し、右組合結成の事実を通告すると同時に、(一)夏季一時金一人一率金五千円を同月二十日までに支給すること、(二)残業手当を正確に支給すること、(三)就業規則を明示すること、(四)賃金体系を明確にすること、(五)右各要求事項につき同月十二日就業時間後右営業所において団体交渉に応じて貰い度い旨の右労働組合長債権者安居忠夫名義の要求書を手渡した。ところが右組合の結成に驚いた前記阿部繁雄は当初右組合員達に対し組合を解散すれば夏季一時金三千円位は支給するが、組合を解散しなければ一銭も支給しない等言明して全く頑迷な態度をとり、更には七月十一日よりは寮において食事は出さない。翌十二日限り組合員達は寮より退去するようにとの言動をとり組合弾圧の態度をとるに至つたので、右組合員達は同月九日頃兵庫県総評に赴き、ことの次第を述べるとともに今後の組合活動の方針等を相談した。そこで右県総評専従員申請外森田昌治、同平坂春雄、等は、数名の県総評青年部の者及び右組合員等と共に前記営業所に赴き、阿部繁雄と面談したが要領を得ず別れ、その後右申請外人等及び組合員等は再三右阿部繁雄に団体交渉を求め、或は団体交渉の過程で組合員達の要求を伝えていた。その間福山運送の業務は次第に能率が低下し、滞貨甚だしく同月十五、六日頃には殆ど業務運営は麻痺状態になつたため、右阿部繁雄は右旧営業所を閉鎖するに至つた。一方債務者会社は荷主或は荷送人より貨物の延着或は不着につき苦情が続出して来たので、右福山運送と組合員達の紛争解決の斡旋のため、七月十一日より同月十四、五日頃にかけて、債務者会社大阪支店次長申請外三島貞三郎、本社取締役申請外戸田某、同小丸某、同大阪支店長申請外高橋至等が右営業所に赴き、双方の要求を聞いた上斡旋に努めたけれども、遂に斡旋が成功するに至らず、右斡旋を断念すると共に、これ以上右紛争の終結をまつにおいては債務者会社自体の信用問題ともなる虞れがあつたので、同月十五日付を以て福山運送に対し、前記委託契約を解除する旨の通知をなし、翌十六日には神戸市役所前に仮営業所を設けて自ら滞貨の一掃に努めると共に、同年八月九日頃神戸市兵庫区西宮内通八十四番地に土地及び建物を購入し、同年十月四日債務者会社神戸連絡所として使用し、認可後は債務者会社の直営々業所として、債務者会社従業員申請外畑比佐満をその責任者とし、債務者会社の神戸及びその自由地域における集荷配達の業務を取扱うこととなつたが同営業所の従業員中四、五名はもと福山運送の磯上通所在の前記旧営業所に働いていたものであるが、いずれも債務者会社より当初は臨時雇傭として傭われていた。ところで一方福山運送は組合員達との前記紛争の目途もつかないうちに前述の如く債務者会社より前記契約を解除されるに至つたので、爾後営業を継続することは経済的に困難であることが明らかとなり、同年七月十六日頃福山運送を解散し、次で同じく清算人阿部常吉の名義を以て灘公共職業安定所長宛に同月二十日事業所を廃止した旨の同月二十二日付失業保険適用事業所廃止届を提出した。そして翌八月七日付を以て当時の従業員全員約三十二名に対し、会社解散を理由に解雇する旨、清算人阿部繁雄名で解雇通知をなした等の事実が一応認められる。

以上認定の諸事実に徴すれば、福山運送が解散するに至つた経緯において、同会社経営者の阿部繁雄、同阿部常吉等の労務管理に対する不認識、不手際が存在していたことは否み得ないが、解散の直接の原因は債務者会社よりの前記委託契約の解除によつて福山運送の営業継続が困難となつたことが直接の原因であり、福山運送が右組合を壊滅する目的のために会社解散という手段をとつたものとは認め難いところである。

旧営業所と新営業所との営業内容を検討してみるに、両者は共に債務者会社の神戸及びその周辺地域における同会社取扱貨物の集荷配達業務をその内容とするものであることに変りはないが、前者の右業務の運営は債務者会社に対する前記委託契約の履行としてなされたものであるのに対し、後者のそれは荷送人との運送契約の履行としてなされるものであること、所得の性質については、前者は債務者会社との右契約による報酬(手数料)であるのに対し、後者は荷送人との運送契約による運送賃であること、営業所の設備も、前者は前記阿部常吉個人及び福山運送各所有の土地、建物を営業所等として使用しているのに対し、後者は債務者会社において新しく土地、建物を購入の上、これを営業所としていること、右両者間における人事の交流は必ずしも自由ではないこと等よりすれば、福山運送の右解散前の企業と、債務者会社の右新営業所との営業が、その実体において同一性が在ると解することは困難であり、福山運送は解散によつてその企業を廃止し、債務者会社の右新営業所は右企業と関係なく設置されたものと解するのが相当である。従つてこの点に関する債権者等の主張も採用し難いものといわなければならない。

三、次で債権者等は、福山運送が仮に存在していたものとしても、債務者会社は商法第二十三条により所謂名板貸人としての責任を免れない旨主張するので以下検討する。

既述の如く債務者会社は福山運送に対し債務者会社の営業所又は荷扱所名を使用することを許諾し、福山運送が前記旧営業所において、債務者会社神戸営業所なる名称のもとに営業を継続してきたものであるから、債務者会社の右行為が商法第二十三条に規定する所謂名板貸行為に該当することは明白である。

そこで名板貸人が、商人たる名義使用人の名板貸人名義による従業員の雇入れという雇傭契約上の、雇主の債務について責任を負担するか否かについて考えてみると、商人たる名義使用人がその営業のために従業員を雇傭するのは、その営業の維持便宜のためにする行為として附属的商行為に該当するものと解せられるところ、取引の安全と禁反言の原則により導かれた商法第二十三条の法理より考えて、同条にいう「取引」行為の中より特に従業員の雇入れ行為を除外すべき理由は見出し難いところであるから、名板貸人は右雇傭契約上の雇主の債務の責任を免れないものというべきである。

そこで本件について名板貸人たる債務者会社の責任の有無につき以下検討する。

公共職業安定所に対する福山運送の求人申込が債務者会社神戸営業所の名義においてなされていることは前記認定のとおりであり、灘公共職業安定所長作成部分については成立に争いがなく、その余の部分はすべて弁論の全趣旨により成立を認め得る疎甲第十三号証の一及び二、神戸公共職業安定所長作成部分については成立に争がなく、その余の部分は証人平坂春雄の証言及び弁論の全趣旨により成立を認め得る同号証の三及び四、債権者菅原本人尋問の結果成立を認め得る同第十四号の二、弁論の全趣旨により成立を認め得る同第十四号証の一及び三乃至八、成立に争いがない同第二十号証の一乃至四、前記債権者等各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、福山運送は公共職業安定所以外にも求人の申込は一般に債務者会社神戸営業所名を以て行つており、債権者菅原、同佐々木、同金田の三名はいずれも灘公共職業安定所より、同佐藤は神戸公共職業安定所より、同安居、同稲垣はいずれも前記旧営業所の元従業員より、同高崎、同田渕はあそや自動車練習所よりいずれも求職先を債務者会社神戸営業所として紹介され、同営業所において同営業所々長なる肩書を有する申請外前記阿部繁雄と面談して労働条件等を聞いた上就職するに至つたものであり、右の如き就職のいきさつ及び右営業所の前記認定の如き外形上の一切の表示から考えれば、債権者等はいずれも、当初債務者会社神戸営業所に勤務することとなつた旨信じていたと認めるのが相当であり、又かく信じることにつき別段の過失はなかつたものと解せられる。右認定に反する証人阿部繁雄の証言は措信できない。

ところで継続的な法律関係を形成する雇傭契約においては契約当初相手方たる被傭者が善意、無過失であつても、同契約の継続中悪意、若しくは有過失になつた場合には、その後の法律関係につき爾後、商法第二十三条にいう善意の第三者としての保護に値せず、従つて名板貸人の責任を追求できないと解することが相当である。蓋し雇傭契約によつて雇主は被傭者に対し、一般に労務の提供を求める債権を取得しこれに対する報酬を支払う債務を負担し、これに対応して被傭者は労務を提供すべき債務を負担すると同時に報酬請求権を取得するけれども、被傭等は報酬前払の約定等別段の事由がない限り雇傭契約の成立により直ちに報酬を請求することはできず先に労務を提供することによつて、始めて具体的に報酬請求権を行使し得るものであるから、雇傭契約の継続中被傭者が悪意若しくは有過失になつた場合においては、その後に労務を提供して具体的な報酬請求権を取得したとしても、それは既に商法第二十三条にいう誤認して取引を為したるものには該当しないからである。

そこで本件につきこの点を更に検討してみるのに、疎甲第一号証の一、同疎乙第三及び四号各証、証人森茂市の証言により成立を認め得る乙第二十一号証の一及び二、同疎検乙第一及び二号各証、証人森田昌治、同上田正吉(一二回)同阿部繁雄、同三島貞三郎、同畑比佐満、同岩崎稔、同高橋至、同林茂市の各証言及び債権者菅原治男本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、福山運送は前記認定の如く、債務者会社の外に申請外久留米運送、坂田回漕店との間においても、それぞれ貨物の集荷配達について委託契約をうけ、営業所も債務者会社関係の前記旧営業所の他に、同所より約五百米離れた小野柄通にも久留米運送及び坂田回漕店関係の営業所(同営業所には久留米運送及び坂田回漕店神戸営業所なる表示がなされている)を持ち、債権者等を含む全従業員のうち、或る者は主として坂田回漕店名を表示した車輛に乗車し、或る者は主として久留米運送名を表示した車輛に乗車して右小野柄通所在営業所における集荷配達の業務に従事し、或る者は債務者会社名を表示した車輛に乗車して右旧営業所における右業務に従事し、それも専属的に近いとはいいながら必ずしも固定的ではなく、その時々の状勢に応じて前記阿部繁雄の指示により、他の営業所の事務に従事することもあり、又車輛乗務員以外の者でも右小野柄通所在営業所における車輛乗務以外の事務に略常時従事している者があるに拘らず、給料は右旧営業所において同営業所内に席を有する前記申請外阿部常吉或は阿部繁雄より直接手渡され、従業員の殆ど全員が同営業所裏に在る前記寮に起居していること、従業員達等は平素右常吉を社長或は親父と呼称していたこと、福山運送名の表示ある健康保険証が全員ではないが従業員の一部に交付されていること(債権者佐々木もこれを受領している)右旧営業所における使用車輛の給油のためのガソリンチケツトは同営業所の担当事務員より必要な都度乗務員に交付されるが、同チケツトには福山運送発行のチケツトであることが明示されていること、債務者等が前記組合を結成した際、前記組合結成通告書及び要求書の作成方を依頼した申請外上田正吉に対し、債権者等が福山運送の従業員であり、同会社の社長は右阿部常吉であることを告知していること(尤もこの点について債権者等各本人尋問の結果によれば、債権者等は右のような事実を右上田正吉に告げたことはない旨極力強弁し、証人上田正吉の証言中にも右債権者等の主張に副うものがあるが、同証人の証言(二回)によれば訴外上田正吉は債権者等より当初組合結成について相談をうけるまでは債務者会社或いは福山運送という会社があることは知らなかつたのであり、従つて福山運送の社長が阿部常吉であることは固より知る由もない。とすれば、右申請外上田正吉が組合長安居忠夫名義の福山運送社長阿部常吉宛の福山運送労働組合の結成通告書及び要求書を作成したのは債権者等より右事実を聴取したからに外ならないとみるのが自然であつて、このことは債権者菅原本人尋問の結果中にも窺われるところである。債権者等各本人及び右証人(一、二回)の各供述中には、右の事実は同訴外人が軽率にも誤つたものである旨述べているが、軽率な誤りにしては余りに重大な点に関する過誤であり、兵庫県貨物自動車労働組合の専従員である同訴外人がかかる重大な点に関して軽々に誤りを犯すとは別段の事情がない限り考えられない。)、債権者等が右組合を結成後、福山運送労働組合と表示したポスターを作成し、その内容には前記阿部常吉及び阿部繁雄に対する個人的な非難も記載されている上同ポスターは債務者会社神戸営業所と表示した前記旧営業所のみならず、外形上も何等債務者会社とは関係なく、坂田回漕店神戸営業所名及び久留米運送名の表示のある前記小野柄通所在の営業所にも貼付されていること、組合結成と同じ頃作成された組合旗にも福山運送労働組合なる社名が表示されていること、前述の如く債務者会社の大阪支店長、次長等が昭和三十四年七月十一日頃から同月十四、五日までの間仲介斡旋のため債権者等と面談した際、債権者等は福山運送と債務者会社とは別個の会社であり、債権者等と債務者会社との間には直接の法律関係がないことを前提とした言動をとつていること、(これを例えば、債権者等より右大阪支店長に対する「福山通運においては超過勤務の時間計算等をどうやつているか」等の質問、これに対する同会社支店長の説明に対して、「それでは福山運送は福山通運より同じ時間働いて一時間少ないじやないか」等の言動、「福山通運としては夏季手当は幾ら出しているんだ、我々のとこは未だ出ていないんだ」等の質問、「我々は我々の手でやるから手をひいてくれ」との趣旨の言動によつて明らかである)等の事実が一応認められるところであつて、右認定に符合しない証人上田正吉(一、二回)の証言及び前記各債権者等各本人尋問の結果の各一部は措信し難い。

右諸事実によれば、債権者等は前述の如く雇傭契約の当初は、自分等の雇主は債務者会社であると信じ、且つかく信ずるにつき過失はなかつたものと認められるけれども、その時期は明らかではないとはいえ、債権者等が前記組合を結成した当時においては、既に自分等の雇主は福山運送であることを認識していたものと認めるのが相当であり、その余の点に判断するまでもなく、債権者等は債務者会社に対して、右認識後の法律関係にもとずき名板貸人としての責任を問い得ないものというべく、この点に関する債権者等の主張も理由がない。

四、次で債権者等は、仮に福山運送が存在していたとしても、債務者会社は民法第百九条によつて責任を負担すべきものであると主張するので以下検討してみるのに、

前述の如き債務者会社の福山運送に対する名板貸行為は、同時に福山運送がその営業に関し取引をなした善意の第三者に対して代理権を与える旨を表示した行為に該当するものというべきである。しかして前項で説示したと同じく民法第百九条の規定も取引の安全と禁反言の法理より導かれた規定であるところからみれば、福山運送がその営業のためにする行為については一切責任を負担すべきものと解され、特に福山運送がその営業のためになした従業員の雇入行為のみを除外すべき理由はない。

しかしながら継続的な法律関係を形成する雇傭契約にあつては、その契約の継続中相手方たる被傭者が悪意若しくは有過失になつた場合においてはその後の法律関係につき爾後善意の第三者としての保護をうけないと解すべきこと前項説示したところと同様であつて、本件につきこれをみるに、前項において認定した如く債権者等が遅くも労働組合を結成した昭和三十四年七月五日頃においては既に善意という要件を欠いていたものと認められる以上、その後民法第百九条を援用して債務者会社に対し、雇傭関係の存在及び賃金請求をなすことは許されないものというべく、従つてこの点に関する債権者等の主張も採用し難いところであるといわなければならない。

以上の次第で債権者等の主張は結果いずれもこれを採用し難いので本件申請は理由なきものとして却下を免れず、申請費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 重富純和)

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